日本で紅茶がコーヒーほど一般化しないわけ

紅茶チェーンが見当たらないワケ:日経ビジネスオンライン
business.nikkeibp.co.jp/article/pba/20100120/212320/
コーヒーと紅茶は、似たような「嗜好飲料」と位置づけられているはずなのに、ビジネスの実態としての規模は大きく異なるようです。この違いは、一体どこから生まれるのでしょう?

この記事を読んで紅茶屋として、いくつか言っておかなければいけないような気がしました。
少しビジネス寄りの視点になりますが、書いてみたいとおもいます。
紅茶にチェーン店がまったくないわけではないです。
ルピシアなどは紅茶のチェーン店と言っても差し支えないでしょう。
伊藤園が展開するTea.Pi.O.などもあるし、飲ませるチェーン店ではアフタヌーンなどもある。
ですが、ドトールやスターバックスなどのように多店舗展開、フランチャイズ展開をできるような体力のあるところは紅茶界隈にはありません。なぜでしょう?チェーン店が進出できるほどそもそも市場(マーケット)がないからだとおもいます。

・紅茶やコーヒーの市場規模

Coca Tea - Cafe - La Paz - Bolivia
Creative Commons License photo credit: Roubicek

これは調査した数字ではありませんが、よく言われていることとして、コーヒーを9とするとのこりの1を紅茶と緑茶でわけあうようなシェアといわれています。それほどまでに紅茶のシェアは低いです。そういう意味では紅茶はコーヒーと比較するのではなく緑茶と比較するといいのかもしれません。

 まともな市場調査のレポートは非常に高価なので、よむことも叶いませんが、公開されている範囲でデータを集めると…

www.fuji-keizai.co.jp/market/04073.html
2000年にはそれぞれ2,000億円前後の市場であった。その後、紅茶、ウーロン茶、ブレンドティが低迷するなか日本茶は急成長し、2004年の市場規模は、紅茶、ウーロン茶、ブレンドティが1,700~1,800億円程度であるのに対し、日本茶は、4,500億円を超える見込みである。
www.fuji-keizai.co.jp/market/09055.html
2009年の嗜好飲料のマーケットが1兆8,539億円。
2009年予測 缶コーヒー 7,738億円

trendy.nikkeibp.co.jp/article/news/20090304/1024298/
富士経済(本社:東京都中央区)は2009年3月3日、国内の飲料市場動向調査の結果を発表した。2008年の市場規模は、嗜好飲料が前年比1.3%減の2兆49億円

数字を拾い読みするに、清涼飲料でみるマーケットシェアは
[8(コーヒー):5(緑茶):2(ウーロン茶):2(紅茶):2(ブレンドティ):2(他?)]
これくらいでしょうか。
喫茶店などでの注文割合が9:1なのかもしれないですね。体感的にはそれくらい。

背景を読み解いてみます。

緑茶は近年急成長しました。この背景には自動販売機やペットボトルなどによる商業的成功があるのではないでしょうか。そのため茶葉農園などが文化、産業として構造的になかなか難しいことになっているようなのですが、ここでは話しが少し逸れるため省きます。

それまで、緑茶はどのようにして商売として成り立っていたか?
日本茶屋さんで茶葉を買ってまで飲む人というのは少ないのではないでしょうか。
香典返しをはじめとする贈答品やギフト品で緑茶はその大半の需用を賄っていました。
日本茶屋さんと海苔屋さんが業態を兼ねることが多いのもこのためなのではないかと思います。
お鮨しは現代の葬儀には必須の精進落としですしね。
ここらへんの業態を最初につくりあげた人は偉いというか、凄いですね。

・紅茶はなぜ大手資本が参入できないか

紅茶にはそこまでのマーケットが無いといいました。
逆に言うと、そこまで大きなマーケットを作ってそれを多売しても儲からないというのがあげられます。
原価率で考えると、紅茶を売るよりコーヒーを売ったほうが儲かるし、もっというと、炭酸水や清涼飲料を売ったほうが儲かります。

注目すべき点として、生産量があげられます。
7,365,000トン(コーヒーの生産量)
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%92%E3%83%BC%E8%B1%86

3,640,191トン(世界の茶葉生産/ 日本茶、中国茶、紅茶の合計)
ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8C%B6

 日本茶、中国茶、紅茶を合計してもコーヒーの生産量には届きません。日本人が飲むような上質な紅茶として日本で流通できるのはさらにわずかです。コーヒーは先物などの市場などにもあるように生産量と値段は密接な関係にありますが、一方、茶はそのグレードによって売買されその品ごとにオークション的に値段がきまってきます。
つまり、いい茶葉はそもそもが高いので安く買って高く売るというのができないのです。
なので、紅茶は完全な嗜好品として流通するか、廉価品を綺麗なパッケージやティーバッグに加工するなどして整え販売するしかないのかなと思います。
紅茶をそこまで力をいれて販売促進しても儲からない。
これが結論なのではないでしょうか。
ただ、まったく売れないわけではないので、売る。このバランスなのかなと思います。
コーヒーは実際よく売れるというのもありますが、半分はイメージ戦略が当たっているというのもあると思います。
いまでこそあたりまえに飲まれているコーヒーですが、半世紀前にはここまでの生活に根付いたものではありませんでした。
CMをするほど売りたいのはそこに売れば売るほど儲かるという伸びしろがあるからです。
もっともそれも今すこしかげりが見えているので、緑茶に行ったり、紅茶に行ったりと模索している感はあります。
大規模資本投下をおこなっても、お金をかけても、お金をかけなくてもリターンがあまりかわらない。
これがつまりマーケットの選択性が働いている結果のひとつなのではないかなと思います。

・何故コーヒーは成功したか

紅茶もかつては大成功を収めました。歴史にもでてきましたがたまたま生まれた紅茶というものをめぐって人類は戦争までおこしてきたのです。それほどまでに刺激的なものでした。ですが、コーヒーの香りの強烈さと味の濃さには適いません。
お店から100mぐらい離れたところにコーヒー豆やさんがあるのですが、風にのってローストがかおってきます。
紅茶で対抗しようったってどだい無理な話しです。
日本の高度経済成長期を象徴するのはコーヒーとタバコといっても過言ではありません。
コーヒーはタバコにも負けない強いかおりがありますし、味があります。
タバコを吸いながらではなかなか紅茶は味わいにくいし、香りをきくのも困難です。
タバコがあった時代にはコーヒー以外に選択肢がなかったともいえます。

常習性

タバコには中毒というか常習性があります。常習性があるものをとりすぎると中毒状態になります。
慢性中毒状態からそれらを絶つと禁断症状に陥ってしまいます。
アルコールなどにも依存症があるように、コーヒーやお茶、チョコレートなどに含まれるカフェインにも常習性があります。

ですが、もっと強い常習性があるものがあります。
意外かもしれませんが、それは砂糖です。
大量に砂糖が含まれたコーヒーなど飲まないといわれる方も多いかもしれませんが、日本で流通しているコーヒー缶などのを思い出してみてください。紅茶でもいいです。非常に大量の砂糖が含まれています。
炭酸飲料やコーヒーであったからこそ、ここまで大量の砂糖をとけこませられたのかなとおもいます。
紅茶とうまくなじませるのはなかなか難しいです。午後の紅茶はよく頑張っているほうだとおもいます。
緑茶のペットボトルのように、砂糖を含まないものがでてきました。
これは肉体労働者が減少の傾向にあるなどの実態を反映しているのかもしれません。
コーヒーの売上にもかげりがみられます。
タバコも最近はやりだまにあげられることも多く、離煙が進んでいることと関係があるかもしれません。

日本で紅茶がコーヒーほど一般化しない理由はいくらでもおもいつきますが一番はやはり儲からないという構造的な要因なのではないでしょうか。

件の元記事がいいたかった紅茶の可能性を紅茶屋が否定する形になってしまいましたが、現在の紅茶屋を商業的に成功させた先にコーヒーのチェーン展開のようなものがあるわけではないので、あえて違う切り口にてまとめてみました。