紅茶のはじめかた 紅茶ってなんですか?

紅茶とはなんでしょうか?

素朴でストレートな質問ですが、意外と答えるのが難しい問いです。一般的なことを順序だてて説明することは簡単にできますが、既に誤解があった場合、まずズレを認識しないと説明は意味をなしません。
「ダージリン」という紅茶を例にとっても紅茶屋が言うダージリンと、普段ペットボトルの「ダージリン」しか飲んだことがない人との間では、同じ言葉でもたがいに想像するものがズレてしまっています。
当店では茶葉を扱っていますので、検索をされて商品にたどり着かれたお客様はその時点でなにがしかの知識を既に有しているかたが多く、商品説明などはそのようなお客様に向けて書かれてしまっています。
今回は「はじめて」という人に向けて楽しみながらよめるようにできるだけ懇切丁寧に書いていきたいと思います。

クリスティ(原宿)
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お茶について

麦茶は麦を煎ったもの、コーヒーはコーヒー豆を煎ったものです。平たく言えば豆の焦げ汁です。他方、緑茶、紅茶、ウーロン茶は茶葉からいれられます。こちらは平たくいえば葉っぱの戻し汁です。日本語の漢字にこだわるのであれば同じ「いれる」でも、前者は煎れる(せんじるという意)、後者は淹れる(お湯にひたす)の違いになります。

コーヒーと麦茶では豆の種類が違いますが、緑茶、紅茶、ウーロン茶などは実は同じ「茶の木」というツバキ科の木の葉っぱからつくられています。茶の木にも品種の違いがありますが大きくわけると中国種とアッサム種のふたつに大別され分類されます。日本茶は中国種に分類されます。

「でも、紅茶も日本茶、烏龍茶も、プアール茶とか!全部味が違うよ?」
そうですね、でも、これらは同じ茶という葉っぱの蒸しあげや発酵のさせかたが違うだけなんですね。

食文化と多様性について

同じ牛乳を原料にヨーグルトになったり、チーズになったりします。大豆も枝豆になったり、豆腐になったり、油揚、豆乳、きな粉、味噌になったり、醤油になったり、納豆になります。お茶の葉も紅茶になったり、緑茶や烏龍茶のような形でのまれたりします。元は一緒です。

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人間も生物ですから、人間が食べるのに相性のよいものとそうでないものがあります。
人類はそれを1万年以上前に始まったとされる農耕で生産してきました。農作物や畜産物が様々な形に加工され生活に入りこみ文化が形成されました。茶の葉っぱが土地によって緑茶になったり、ほうじ茶になったり、紅茶になったり、烏龍茶になったり、プアール茶になったり、ジャスミンティーになったりしたわけです。

日本のように四季があって、新芽がでて茶摘ができる時期が限られる地域では旬を味わう緑茶のようなフレッシュな状態が重宝されますし、中国のような大陸では何年、何十年と熟成させたり、持ち運びが容易なように餅茶のような文化ができあがります。紅茶は当時植民地であったインドから大英帝国への長い航路を船荷として運ぶ過程で生まれたという逸話があります。その適度に酸化発酵が進んだ状態が石灰質の高い英国では水にあったのでしょう。

特定の食物が流行・土着化したのにはそれぞれ背景があります。ですが、その状況は戦後以降の物流の変化により大きくかわりました。1903年にライト兄弟が初飛行をして以降わずか100年の間に物流の速度は各段にあがりました。インターネットが民生化して情報は数秒も待たずに国境を簡単にこえるようになってしまいました。10年前と比べても世界は圧倒的に身近なものになりました。

この世界の距離感の変化が、同じ地域に住んでいる人でも人によってイメージする紅茶をまったくの別物にしてしまっているわけですね。住まう地域に専門店がなくてもネットショップ経由で買えるという情報差がさらにその事態を加速しています。

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「紅茶とは」が長くなりそうなので回をわけます。
次回は、なぜ人々の間で紅茶のイメージがずれるのかについて書きます。
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※注釈)
このコラムは茶葉から選んで紅茶をたのしめるようになるために、はぐら茶屋がまとめていくシリーズです。
こちらの紅茶のはじめかた カテゴリーから過去の記事を読むことができます。