ちまたにあふれる紅茶専門店の閉店

先日、ここの数年前のブログをよまれた超大手紅茶屋さん(スーパーとかでも見かけるあそこらへん)が、熱心にも巷の紅茶屋さんの話しを聞かせてくださいとわざわざ三鷹までご足労していただいた。なぜ日本では紅茶のマーケットが伸び悩んでいるのか活路を探しておられるようで非常に興味深く意見交換をさせていただきました。

 

さて、ひさしぶりに紅茶屋がらみの話題についてブログ書こうかなとおもったのは、インスタグラムなどのソーシャルメディア疲れで紅茶専門店を閉じられたという当事者ではないひとのブログをみたから。

ある紅茶専門店の閉店と、SNSとの関係性について
9tail.hatenablog.com/entry/tearoom-sns

雨が降っているけど傘がないとか、今朝ゴミを出し忘れたとか、他人からみると些細なことがきっかけになって、心が折れてしまうことはままあることだけれども、それそのものが主因となってお店をたたむ外力として働くわけではないとおもう。なんだかんだ個人の飲食店が潰れるというのは実によくある話しで、その理由は何か一つのものに帰結するものではなく、内部要因と外部要因の蓄積によってその判断に至るだけ。だって変化に応変するのが経営なのだから。

 

飲食店の開業率、廃業率はとてもとても高い。一説には10年以内に9割が廃業するそうだ。すこし正確なデータを得るために検索したのだが、

飲食料品卸売業 開業率5.1% 廃業率16.5% 廃業事業所12,740件(平成18-21)
飲食料品小売業 開業率6.1% 廃業率21.0% 廃業事業所79,108件(平成18-21)
飲食店 開業率11.2% 廃業率24.4% 廃業事業所718,473件(平成18-21)
www.gender.go.jp/kaigi/senmon/kihon/kihon_eikyou/pdf/datarep_01.pdf

飲食店の平成21年の調査事業所数は673,385件なので、存在するお店の数よりも3年間で廃業する事業所数のほうが多い・・・。
わぉ!
平成21年か、リーマンショックだからかな?

 

夢のない話し

小売や飲食で従事者の生活がなりたつぐらい稼ごうとすると、最初の資本力から逆算できるかなり夢のない話しになる。でも、せっかく夢を追ってつまらないところで躓く人がでないようにちょっと夢のない話しも書いておこう。

上場するような優良な企業は平均で資本(商売のもと手)を1.2回転ぐらいさせる。
これは1,000万円の資本があるなら、仕入れだ設備だなんだで年間1,200万円ぐらいをつかうわけだ。

平成28年企業活動基本調査速報-平成27年度実績-
www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/result-2/h28sokuho.html

卸の食料・飲料卸売業だと2.46回転。
小売の食料・飲料卸売業だと2.09回転。
飲食サービス業だと1.56回転となる。

 

これを個人レベルのお店に例えれば年間1,000万をつかって1,560万稼ぐかんじ。
560万円分が商売によって生み出された付加価値となる。
さて、さて、この560万円分から、人件費や設備投資費を払ったうえで余らせることができればめでたしめでたし。

 

一般的な優良な会社は小売業で3.95%、食堂、レストランで4.2%程度が残るみたい。
industry.ediunet.jp/choice/521/
www.tkc.co.jp/bast/disp_bast.asp?param=site:zenkokukai,gyosyu:insyoku

 

1,000万で商売をはじめたとしたら年間の売上が1,560万になって、給料とか払ったりして62万円ぐらいを次年度に持ち越せるかなぐらいの規模感。最初のスタートが500万なら31万だし、300万なら20万ぐらい。・・・。あってるかな??

 

飲食店の場合は参入障壁というものがなく脱サラなどで大した計画もなく始めちゃうケースも多く、最初の種銭(たねせん)までを借り入れとかで始めちゃう人がいる。資本にも調達コストというものがあるので、多くみられる失敗ではこの部分で割に合っていないことが多い。

いい製品、プロダクトをつくればとか、よりよいサービスを提供すればお客さんを獲得できて事業が継続できるという考えもあるけれども、優良企業でも利益率4%前後でしのぎを削り合ってるのに、銀行さんなどへの金利分も余計に稼いで、さらに事業を継続しようとなるとそれは至難の技というわけだ。スタートラインが違うのに競り勝てると思っているのだから大したものだ。

スタートラインが違う後発が競争にまじるためには、市場全体が新規参入者をうけいれられるほどどんどん増加している最中か、マラソンが自動車レースに変わったなどの技術上の変革、または極端に安く仕入れられる、極端に多くの顧客に近いなどのコスト収益上の特殊な要因がないとだめ。これがないと、たとえ人気がでて商売がうまく回っているように見えてもどんどんお金がなくなって継続させることができない。

近所をみてみると、ここ三ヶ月ぐらいで100mぐらい内に喫茶が新規で3件ぐらい新規オープンしたり、いま建物の造作をしている最中だ。他方、ずっと続いていたお店などが閉店している。新規オープンするお店とは別の物件でだ。寂しいですねぇ。
新陳代謝なので、創業市場が活況といえば活況なのだろう。こういう急激な動静の変化は銀行の貸付金のだぶつきなどの影響だとおもってる。こちらは、まったくの当て推量だけれども。

飲食店は原価率4割とかで提供されるのがよく言われる数字なのだが、新規オープンの場合、店舗の内装などの造作に1,000万ぐらいかけたりすることがある。資本にまだまだ余裕があるならそれでいいのだが、設備関係の減価償却もできずにアップアップしてしまって、商売が起動にのる前につぶれてしまうことがある。そもそも計画の段階で失敗が見えており、いわゆる打ち上げ失敗例である。これが多い。そういう新品居抜きの什器やら物件を狙っている専門市場もあるぐらいだ。

紅茶とかの茶葉をあつかっているという商売柄、新規オープンの喫茶店からの相談や注文はよくあるのだが、長く続くお店と、すぐなくなってしまうお店は最初の茶葉の引き合いの段階で色々違う。これは、まあ長くなるので、今回は書かない。

 

紅茶専門店のさらに夢のない話し

そう、飲食店はいってみれば乳幼児死亡率がとても高いのだ。

  • 栄養状態が悪い(売上が考えていたほどあがらない)
  • 病気になる(経営者が倒れる、困ったお客さんに憑かれる)

その中でも紅茶専門店というのは、それ単体で稼ごうと思ったら飲食店のなかでも廃レベル難易度なんじゃないだろうか。マゾゲーといっていい。自分は創業段階で損益分岐をたててみたのだがどうしても上にぬけなかった。で、はじめて10年以上やっているのだが、やっぱり上に抜けそうもないし、だからと言ってやりたくないこともある。他で稼いで紅茶に使うぐらいのスタンスでやっているので続いてこそいるが、良い子は真似しちゃだめだと思う。

平成26年工業統計表「企業統計編」 [経済産業省] (平成28年8月5日公表)
www.meti.go.jp/statistics/tyo/kougyo/result-2/h26/kakuho/kigyo/index.html

 

  • 緑茶(仕上茶) 2014 製造品出荷額 2340億9000万
  • 紅茶(仕上茶) 2014 製造品出荷額 192億4600万
  • コーヒー 2014 製造品出荷額 1995億0100万

緑茶は会社の資本金1千万~3千万円の企業があげる売上が市場の49%
コーヒーは資本金1千万~3千万円が市場の21.45%、資本金10億以上の会社が53.01%
紅茶は10億円以上100億円未満の資本金を持つ会社が市場の60%、5000万以上の会社だと89.93%

緑茶業界は小資本でも5%程度のマーケット参入しているが、紅茶界隈ではそもそも小資本での事業例が統計に乗るほどない。

 

紅茶専門店が増えたといっても、市場そのものの出荷額も緑茶やコーヒーの1/10以下だ。10倍の競争力、マーケットシェア力を獲得して、ようやくコーヒー屋さんお茶屋さん並ということだ。

・・・。
それだけの商才、才覚があれば、他の市場ならもっと稼げるんじゃないかな。

 

紅茶専門店の夢がある話し

だけれども紅茶屋というのは、いい商売だ。
まず、いろんな茶葉を買えるし飲める。
これは商売で仕入れている人の特権だ。
他の飲食店と違って食品廃棄をすることはほとんどない。
だから、無理な営業をしなくていい。

コーヒーはロースとしてしまうとあっという間に酸化がはじまってしまうし、緑茶は新茶などフレッシュさが肝要だ。
しかし、紅茶はダージリンみたいな半発酵や緑茶に近い時節ものに手を出さなければ、むしろ少し寝かせたほうが雑味がとれて美味しい。そりゃ、完全発酵で数十年、数百年寝かせてビンテージついちゃってるような中国茶や、ワインのような、一部投機対象になるような商品にはかなわないけれども、紅茶もかつては通貨の代わりとして兌換可能であった史実を考えれば、この軟調な経済環境下においてその不変性はむしろ強みだ。

ぶっちゃけ儲からない。儲からないけれども損失上限もしれている。家賃と人件費さえ工夫できれば、大きな損はしないだろう。喫茶や飲食店は資格認定ビジネスや、開業ビジネスから、はたまた融資ビジネス、破産管財まで、ゆりかごから墓場までまさにフルセットで揃っている。是非こういうのに嵌め込まれることなく、自由な感じの紅茶屋さんがどんどん増えるといいなぁ。

 

ちょっと奥様が既存のカフェをシェアリングエコノミーして、今週のこの曜日は紅茶屋とかはじまれば楽しそうですよね。
あとは、かつての武将が茶室をあつらえ交流に活かしたように、いいところの経営者さんとかが紅茶のサロンとかを持って文化醸成とかで貢献して欲しい。

 

紅茶屋のオープンおまちしております。
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