リプトンのティーバッグを美味しくいただく論文

CiNii(NII論文情報ナビゲータ[サイニィ])は、論文や図書・雑誌などの学術情報で検索できるデータベース・サービスです。最近あれこれ見れるようになって便利な時代になりました。
本業わすれて、関係ない論文ばっかりをよんでたのですが、そうだ、俺紅茶屋だった!とふと思い出して、紅茶に関する論文でオープンになっているものを片っ端から読んでみました、そのなかにおもしろいものがあったのでご紹介します。

 

紅茶の浸出条件が浸出液の品質に与える影響
Effects of Infused Condition on the Quality of Black Tea Infusion
土屋 京子 Tsuchiya Kyoko 東京家政大学調理学第2研究
ci.nii.ac.jp/naid/110008379610
タイトルは硬いですが、読んでみたらリプトンだった!
中身リプトンだったよ!!
なんでも東京家政大学で209名のうち61.2%がティーバッグ派で、72.7%が認知していたブランドがリプトンだったのでリプトンのティーバッグで調査したそうな。
喫茶店やファーストフードでも紅茶を頼むとリプトンのティーバッグを出してくるところありますもんね。圧倒的なコストパフォーマンスですし。日東紅茶すごいですね。
※はぐら茶屋ではリプトン紅茶は残念ながら扱っていません( ´,_ゝ`)

 

そんなわけで、ちょっとだけ解説を交えながらダイジェストを御案内。カップの環境条件、紅茶の浸出時間と水との関係、紅茶を浸出する温度と時間の関係について調べ美味しい紅茶をいれるには調査をしてくれています。

 

リプトンティーバッグの美味しい淹れ方

1.カップは温めるだけでなく、ふたをして木製台の上におくと、温度が下がりにくく、温度変化が少なかった。
2.軟水は温度変化が大きく、渋味が出やすかった。硬水は水色を悪くし、香り立ちが弱かった。
3.イオン濃度では、硬水にかからわず、紅茶を浸出するとカリウムは増加した。またカルシウムは減少しマグネシウムは増えた。
4.浸出時間が1分の場合、湯温は95度で渋味、90度で甘味、85度で水色、80度で香りの評判が悪くなっていった。全体的に5分以上たつと湯温の低下に伴い、香り、色、味に大きな変化はみられなくなった。
5。学生への官能評価では90度で1分抽出した紅茶が好まれた

 

1.カップの環境条件

抽出中の温度低下は香りに影響するそうです。
一般的に言われているカップを温めることよりも、ふたの有無や台の材質のほうが湯の温度に関係するのだとか。
カップの環境条件と温度変化は

ふた有り>木製台>温め>常温>ステンレス台>蓋なし

蒸らし途中の温度変化は香りや水色に影響をあたえる

 

2.紅茶の浸出時間と水との関係

硬度が高くなるほど、より黒っぽい茶色に変色。水道水は時間の経過とともに香りが良くなっていき、軟水と硬水は香り立ちが弱かった。軟水は時間経過で淡い香り、硬水は香りに顕著な変化がなし。軟水のほうが渋みを感じた。

カリウム濃度は時間で増える、カルシウム濃度は時間で減る、マグネシウム濃度は時間で増える(特に水道水で抽出時間とともにマグネシウムの増加量が顕著)

紅茶の水色(すいしょく)は高度が高くなるほど、より黒っぽい茶色に変化した。
硬水は渋みを感じない

 
補足)
硬水、軟水とは水の中に含まれるカルシウム、マグネシウムなどのイオン濃度。ミネラルなどと表現されることもあります。軟水のほうが少なく純粋な水に近く、ついで水道水、硬水となります。この実験では軟水として「森の水だより」、硬水として「エビアン」をつかっています。日本はほとんどの地域が軟水ですので、イメージがしにくいかもしれませんが温泉水などは超硬水と言えばわかっていただけるでしょうか。ヨーロッパは硬水の地域が多いです。ちなみに梨の香水の事ではありません。
硬水が渋味を感じさせないのも重要な提言で、ヨーロッパのティーポットが大きいのもここに由来しています。茶葉をいれっぱなしにしたり、下に押し付けたりするものがありますが、日本の水でやると渋味が際限なくでてしまうので渋味が苦手なひとは引き上げたほうがいいです。

 

3.紅茶を浸出する温度と時間の関係

時間経過で渋みがます。長時間置くとえぐみが出てくる。香り80度以下で弱まった。95-85度で水色。100度で甘み(90度で甘みが悪くなる)

 

4.官能評価

ティーバッグの淹れ方をかえて人による評価をおこないます。
90度で10秒(10回ゆさぶる)、90度で1分、100度で10秒、100度で1分の嗜好の評価をおこなったが有意差は認められなかったそうです。74.4%の学生が紅茶が好きで飲んでいる母集団での調査でわからなかったということは信ぴょう性があります。香りや水色も評価にいれたところ、90度で1分抽出した紅茶が好まれた。

 

 

わたしの考察

英語では紅茶のことをblack teaと言ったりするのですが、英国にわたった紅茶は、紅茶ではなく中国のプーアル茶などの黒茶のことであったのではないかという日本の論文がありました。

4 日本の紅茶受容史 : 黒茶から紅茶へ(V 茶を通した文化コミュニケーション 2)
ci.nii.ac.jp/naid/110006161504

しかし英国のように石灰分が多すぎて、お湯をわかすとヤカンにミネラルびっしりな国では紅茶の色も黒ずむのもわかりますよね。なんでred teaではなく、blackと書くのかこの実験を通してもわかったような気がしました。
紅茶の水色(すいしょく)とミネラル : 近畿支部 第23回研究発表会講演要旨
ci.nii.ac.jp/naid/110001169786

 

さて、90度で1分抽出という魔法の方程式がどんな紅茶にもつかえるかというと、そうでもないのが厄介なところです。ティーバッグにつかわれているダストと呼ばれる細かい茶葉であれば、100℃10秒でも品質に差がでないのかもしれませんが、リーフの茶葉ではそういうわけにもいきません。10秒では茶葉もひらかないでしょう。

ココでつかわれているカップというのはおそらく陶器のテイスティングカップで150mlの湯量で実験をされているので、あまり影響はないのでしょうが、熱量は質量に応じて交換されるので、極端な例を考えるとつめたいラーメンのどんぶりにコップいっぱいのお湯を入れるのを想像してみてください。お湯が一瞬でぬるま湯になります。ティーポットや、使われる湯量、使用する茶葉の量や茶葉の形状なども影響してきます。
わたしが茶葉を仕入れたときにやるのは茶葉の量、湯量、温度を固定にして抽出時間ごとにかえて味を比べる方法です。
本当は温度も変えたほうがいいのですが、パラメーターが2つになると組み合わせがひろがってしまうのでどちらかを固定してやることにしています。
ダージリンのような発酵度の低いお茶は80℃でぐらいで、他は抽出開始するときの温度が90℃です
味わいについては個人の好みに大きく左右されるので、手に入れた茶葉の一番美味しい飲み方を探すやり方だと思って下さい。顔がシバシバするぐらい渋いのが好きという方もいるし、こんな薄くていいのという感じにあっさりしたのが好きなかたもいます。茶葉によってもタンニンの量がアッサム種>アッサム雑種>中国種>日本種というぐあいに違いますし、積んだ時期によっても変わってきます。あくまで、お好みでということになります。

 

疑問1

紅茶を浸出する際は軟水の方が温度変化が大きいことがわかったとありましたが、ありえるのか????と思いました。
再現性があるのか少し疑問です。
ミネラルの代表的な塩水と水を比べたときに、どちらが冷めるのが早いかを実験して、濃度ごとにというとわからなくもない気がしますが、紅茶の溶出とわずかなミネラル分でなぜそこまで差がうまれるのか判らないところであります。
150mlの湯量で実験をしているので環境要因による偶然誤差なんでなかろうかとも思ってしまいました。

 

疑問2

「別の報告書によると香りは71度、味は68度」とあったのだけれども、紅茶の官能調査でのことなのか、一般的な官能調査での指標なのかはわからなかったです。口の中に入ってきたときに68℃だと人間の味覚がわかる上限ぐらい?

疑問3

高い温度で抽出を行うと渋味やエグ味が出やすくなるのですが、温度が低いと香りが出にくくなります。低い温度で低発酵のお茶を長時間出すと甘味が出るのですが、この実験では100℃の高温で5分を超えると甘味が感じられなくなったとある。例えば渋味を出さずに甘味をひきだすための水出し(低温抽出)などとはぶつかる結果である。
高温抽出によるエグ味にかき消されただけなのではないのかと思った。

 
ところで、陶器の紅茶テイスティングカップって欲しい人いますか?